バイオベンチャーへの就職

バイオベンチャー就活について

基本的にベンチャー企業は即戦力を求めます。専門性が合致すれば特に博士課程の学生も歓迎されるようです。再生医療分野の博士学生で、実際にベンチャー会社側から声をかけられる人も周りに多くいました。また、応募倍率も製薬メーカー研究職ほどは高倍率にならないようです。一桁以上小さく、高くて数十倍程度かと思います。大手製薬メーカーにも言えることですが、ポスドクの転職先としてもバイオベンチャーは可能性があるようです。もちろんこれもある程度の倍率がありそうですが、専門分野のマッチングが最重要です。

バイオベンチャーの場合、中堅以上製薬メーカー就職と比較して「将来の不安定さ」が気になるかもしれません。ほとんどのバイオベンチャーは赤字経営でやっています。収入源の多くは「製薬メーカーとの技術提携」「製薬メーカーへのシーズの導出」となっている場合が多いです。もしも導出した医薬品候補がファーストインクラスなどとなれば、安定経営が実現という夢がありますが、そのようなバイオベンチャーはほぼ日本に存在しません。もちろん、今後も成長するバイオベンチャーが現れないということではありませんが、アカデミアで研究をやってきた学生が、(ある程度の判断力はあるでしょうが)会社の将来性を予想するのは至難だとも思います。(追記:2018年現在、ペプチドリームなど上手くいきそうな会社が最近増えていると思います)

将来の不安定さからすると、個人レベルで見れば「アカデミアでのキャリア」も同様ですが、「論文業績」をバイオベンチャーで重ねるのはほとんどの場合は無理です。なのでバイオベンチャーで研究職を勤めた後にアカデミアへ戻るのも困難でしょう。逆に、アカデミアの外では、ポスドク経験よりはバイオベンチャーでの「社会人経験」が転職に有利には働くこともあるかもしれません。といっても、大企業で務めた経験と比べると評価は下がるようです。

私個人的には、将来キャリアの不透明さからしてアカデミアと大差がないと思います。個人の人生観次第でバイオベンチャーが就職先候補に入ったり入らなかったりってところでしょうか。また、博士修了時点での業績や学位取得見込の有無も重要になるかと思います。それでも「あえて第一希望ベンチャー」という理由はあまり思いつかないです。今のところ。


バイオベンチャー就活(私の記録)

私自身はバイオベンチャーには1社のみ応募し、あっけなく、履歴書返送されて祈られました。私は大学院で、ある疾患の発症メカニズムの研究をしていて、その疾患に対する創薬を試みているのベンチャーがあったので応募してみたのです。数十人くらいの社員規模のベンチャーだったのですが、大学院で同じ疾患の研究をしていたという程度の一致では面接にも呼ばれませんでした。思うに博士課程という私の立場は「微妙」だったかもしれません。ポスドクであれば専門性によっては歓迎されると思います。また、学士や修士は熱意を示すことがプラスに働くかもしれません。20代前半である学士や修士であれば、ベンチャー入社してリスクを負うこともいいかもしれませんが、博士課程の私は「これ以上後がない」とも感じており、あえてベンチャーを志望する動機が弱かったです。

私の周辺で、バイオ系のベンチャー企業に入社した同世代はいません。ポスドク(30前半)と助教(40過ぎ)の方の話を聞いたくらいです。直接話を伺ったわけではありませんが、少なくとも彼らを含め私の周りでは、「アカデミアに嫌気がさした・続けられなくなった」というネガティブな理由でベンチャー就職する方も多いです。アカデミア研究者はやはり基本的に研究能力は高いですから、ベンチャーからもそれほど嫌われないと思います。少なくとも一般企業ほどは、新卒志向はないと思われます。そもそも新卒を教育する余裕はあまりないでしょうから。

私は就活の中で、だいたい10社くらいのバイオベンチャーに着目していました。ただ会社規模が小さいので募集自体がほとんどありません。興味のある会社があれば、ウェブサイトの「採用情報」をチェックしてください。そもそも募集ページ自体がない会社も多いです。また、求人サイトに登録すると、バイオベンチャーからの募集もたまにありました。求人サイトは大抵「転職者」あるいは「(実務)経験者」を前提として募集していることが多いですが、新卒学生でも企業側のニーズを知るという意味では求人サイトに登録すると少しは役立つと思います。


バイオベンチャー具体例リスト

この記事は私の独断でのコメントや妄想ですのでご了承お願いいたします。少しは参考になると嬉しいです。

カイオムバイオサイエンスとイーベック

抗体医薬で技術を持つバイオベンチャー2社を挙げました。私の就活してた頃、カイオムバイオサイエンスは積極的に採用活動しており、バイオベンチャーの中で一番印象に残っています。カイオム社の抗体産生システム「アドリブシステム」は是非チェックおすすめします。企業ウェブサイトか、Nature Biotechnologyの原論文もいいかもしれません(doi:10.1038/nbt1092)

イーベックは北海道なので志望から外していました>_<。。すみません。
でも比較的には堅実なバイオベンチャーな気がしていました。

カイオム社の抗体作製技術は確かに魅力的なんですが、2015年時点で(創薬での)実績がまだないため、自信持って志望しませんでした…。中外製薬や大手との契約もあります。一般に製薬会社には目利きがいますから、製薬会社と契約があるベンチャーはひとまず技術的には確かなものを持っていると信じてよいと思います。私は応募しませんでしたが。。

ps
そういえば、協和発酵キリンがヒト化抗体産生マウスを自慢していました。抗体作製方法は色々あって面白いですね。就活では役に立ちませんが。

テラとメディネット

比較的規模のあるベンチャーで、細胞医療に関係するのを2社挙げました。メディネットはふつうにマイナビから募集していましたし、ベンチャーな要素は小さいかもしれません。免疫学をやっている大学院生は採用されやすいと思います。何人かそういう例を聞いているので。

でも実は私、テラやメディネットの治療法が本当に効果があるのか、納得していないんです。多分あるのですが、データを発見できなくて、うーん。。って感じでした。内容はすごく魅力的なんだけど。

細胞を扱う治療は高価なところはネックですね。でもこれから日本でも細胞医療が促進されていくし、大手も参入し始めているので、領域的にはホットだと思います。競争が激化する(と私は思う)ので大手に太刀打ちできるのかという疑問はありますが。

そういえば、大手の中でもノバルティスは特にCAR(Chimeric Antigen Receptor)を利用した治療開発に投資しているらしい。やっぱり私はコストがかかり過ぎるのが私は気になりましたが、「免疫いじって(特にがん)治療」というコンセプトの流行はしばらく続くと思います。基礎研究もしばらく加熱するような気がしています。

ヘリオスとリプロセル

iPS関係の2社です。なんと言っても国がiPSを支援していますから、しばらく仕事がなくなることはないでしょう。ヘリオス社は薬効薬理研究の経験者のみを募集していました(2015年)。求人サイトなどに登録すると、薬理研究者を求めている会社はいくつかありました。ベンチャーに限らず、大学院生で薬効・薬理研究をやってきた人は比較的就活にも困らないのではないでしょうか。うらやましい。

リプロセルは現段階では創薬を事業としていなくて、むしろ研究支援がメイン事業になっています。iPS用の培地とか試薬類の生産、販売ですが、iPS細胞研究者では知らない人はいないくらいの会社らしいです(京大iPS研究所の人に聞きました)。創薬に賭けてるベンチャーと比べて、長期的に倒産しないと思えます。

国が不自然(だと私は思う)にiPS研究を支援しているから、あと10年とかは民間でもアカデミアでも仕事はあると思います。しかし、私は就活時に「現在と比べて」分野的に拡大するかなぁと思案して、「そうは思わない」という結論に達しました。既に研究者の人数がやたらと多いことに、アカデミア在籍の私は気になっていました。そういう研究者とどうしても競争しなければならないので、博士課程の私が遅れて参入するのには気が引けてました。また、一般人を煽っている(と私は思っている)割には魅力的には感じていませんでした。ただ、国が大金(税金)はたいているので、しばらくは産業規模が維持されるような気がしています。

その他のカテゴリ

上記で、「抗体技術」「細胞治療」「iPS創薬」分野のベンチャーを挙げたのですが、他の領域としては、DDS、インフォマティクス、核酸医薬などの関連企業も多い印象です。大学院でこれらの研究を行った学生(特に博士学生)はバイオベンチャーも積極的にチェックしていいかもしれません。

研究職だけでなく、開発職やMRもバイオベンチャーが募集していたりしますが、率直に言って新卒学生が求められているような気はしません。研究職なら大学院での研究経験でまあOKかもしれませんが、開発や営業職であれば基本的には経験者つまり「転職者」を想定していると私は感じます。


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